企業の自己分析をまとめたレポートが公開
2022年8月に、「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2021年版)」が公開されました。
これは、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)のレポートで、経済産業省が提供する「DX推進指標」を使って日本企業が自己診断を行った結果を分析したもの。
今回は、このレポートから見る、日本企業のDX成熟度や、進んでいる領域、課題などをご紹介致します。
DX推進指標とは
「DX推進指標」は、経済産業省が作成した、企業のDXの進み具合を自己診断するための指標です。
9つのカテゴリに分かれて問が用意されていて、経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門などが議論をしながら回答していく事で自己診断を行います。
指標は定性指標と定量指標に分かれていて、定性指標は最も低いレベル0~最も高いレベル5の6段階で評価します。
各レベルの特性は次のように定義されています。
レベル | 状態 | 特性 |
---|---|---|
0 | 未着手 | 経営者は無関心か、関心があっても具体的な取組に至っていない |
1 | 一部での散発的実施 | 全社戦略が明確でない中、部門単位での試行・実施にとどまっている (例)PoCの実施において、トップの号令があったとしても、全社的な仕組みがない場合は、ただ単に失敗を繰り返すだけになってしまい、失敗から学ぶことができなくなる。 |
2 | 一部での戦略的実施 | 全社戦略に基づく一部の部門での推進 |
3 | 全社戦略に基づく部門横断的推進 | 全社戦略に基づく部門横断的推進 全社的な取組となっていることが望ましいが、必ずしも全社で画一的な仕組みとるすることを指しているわけではなく、仕組みが明確化され部門横断的に実践されていることを指す。 |
4 | 全社戦略に基づく持続的実施 | 定量的な指標などによる持続的な実施 持続的な実施には、同じ組織、やり方を定着させていくということ以外に、判断が誤っていた場合に積極的に組織、やり方を変えることで、継続的に改善していくということも含まれる。 |
5 | グローバル市場におけるデジタル企業 | デジタル企業として、グローバル競争を勝ち抜くことのできるレベル レベル4における特性を満たしたう上で、グローバル市場でも存在感を発揮し、競争上の優位性を確立している。 |
この記事で紹介している数値もこの6段階評価の値になります。
なお、DX推進指標については、以下の記事で詳しく解説しています。
DXのための取り組みは加速傾向
レポートでは、2020年以前と2021年の自己診断結果を比べた結果、提出企業数の増加や成熟度の向上が見られ、「国内企業のDXに向けた取り組みは加速している」と述べらています。
これは、新型コロナウイルスをはじめとした社会情勢や働き方の変化、DX認定制度をはじめとした政策が進んでいる事な どを受け、DXの重要性が広く認知されはじめた事が影響していると考えられます。
当社でDX推進のための無料診断を行っていますが、需要の高まりを感じています。
飲食店をはじめとした実店舗を持つビジネスにおいても、ECサイトを作ったり、デリバリーサービスを導入したり、非接触決済を導入したりと、社会情勢における危機感に迫られて、デジタル技術を導入する事業者も増えてきています。
DXに向けた取り組みは、今後ますます加速していく事が予想されます。
DX指標の成熟度レベルが高い領域はセキュリティやビジョンの共有
では、各企業のDX指標において、成熟度が高い分野はどこなのでしょうか。
「全企業における現在値の平均が高い上位5指標」は、次のような結果になっています。
項目の前にある数字は、「DX推進指標」の項目番号です。
指標 | 現在値 |
---|---|
9-5 プライバシー、データセキュリティ | 2.56 |
2 危機感とビジョン実現の必要性の共有 | 2.25 |
7 事業への落とし込み | 2.24 |
9-2 人材確保 | 2.24 |
8-4 IT 資産の分析・評価 | 2.20 |
1位は「プライバシー、データセキュリティ」です。
社会的にこの重要性が広まっている事からか、他の項目よりも成熟度が高い、つまり取り組みが進んでいるようです。
2位が「危機感とビジョン実現の必要性の共有」、3位が「事業への落とし込み」という結果になっており、DXの必要性が共有され、具体的に動き出している企業が多い事が分かります。
4位に「人材確保」が入っているのですが、一方で、「全企業における現在値の平均が低い下位5指標」の最下位が「人材育成・確保」です。
これに関しては次の項目でご紹介します。
DX指標の成熟度レベルが低いのが人材確保と育成
「全企業における現在値の平均が低い下位5指標」を見てみると次のような結果になっています。
指標 | 現在値 |
---|---|
6-1 事業部門における人材 | 1.56 |
4-3 評価 | 1.61 |
6-2 技術を支える人材 | 1.63 |
7-2 バリューチェーンワイド | 1.67 |
6 人材育成・確保 | 1.69 |
これを見ると、人材の育成や確保が進んでいない事が分かります。
先ほどの「平均が高い上位5指標」の4位に「人材確保」が入っているのにも関わらず、成熟度が低い項目に人材関連の項目が入っている事が気になりますね。
これの事に対して、レポートでは「IT部門は設置されているものの、その人材のプロファイルや数値目標の整備が追い付いていない、もしくはそれらを定義することが難しいことを示唆している」と述べられています。
また、「評価」も最下位5項目に入っているため、今後、DXを進めていくためには、DX推進のための人材の確保・育成に加えて、取り組みを評価する仕組みを作り、PDCAを行っていく事が重要であると考えられます。
最近はDX推進のための勉強会や事例を紹介するセミナーなども多く開催されており、それらのイベントから最新情報やアイデアを得る事も人材育成につながるでしょう。
イベント参加をきっかけに人材確保ができた、という例もよくあるようです。
当社でも、定期的にイベントを開催していますので、ぜひチェックしてみてください。
中小企業は取り組みのスピードが速い!?
中小企業に関するレポートでは、次のような指標が掲載されています。
- 「中小企業と大企業における現在値の平均の差が大きい上位5指標」
- 「中小企業と大企業における現在値の平均の差が小さい下位5指標」
それぞれ見てみましょう。
まずは、「中小企業と大企業における現在値の平均の差が大きい上位5指標」です。
指標 | 中小企業の現在値 | 大企業の現在値 | 現在値の差 |
---|---|---|---|
8-8 ロードマップ | 1.66 | 2.30 | 0.64 |
3 経営トップのコミットメント | 1.73 | 2.36 | 0.63 |
5 推進・サポート体制 | 1.53 | 2.15 | 0.62 |
5-2 外部との連携 | 1.65 | 2.23 | 0.58 |
2 危機感とビジョン実現の必要性の共有 | 1.84 | 2.41 | 0.57 |
5-1 推進体制 | 1.71 | 2.28 | 0.57 |
続いて「中小企業と大企業における現在値の平均の差が小さい下位5指標」です
指標 | 中小企業の現在値 | 大企業の現在値 | 現在値の差 |
---|---|---|---|
9-4 データ活用の人材連携 | 2.16 | 2.11 | -0.05 |
8-2 スピード・アジリティ | 1.76 | 1.83 | 0.07 |
8-1 データ活用 | 1.88 | 1.97 | 0.09 |
8-5 廃棄 | 1.62 | 1.83 | 0.21 |
8-3 全社最適 | 1.86 | 2.08 | 0.22 |
中小企業は、大企業に比べ、計画面や体制面で成熟度が低い結果が出ていますが、これは従業員規模・資本規模が関係していると思われます。
従業員が少ない、予算が充てられないといった事が原因なのではないでしょうか。
一方で、大企業と大きな差がない項目には、「データ活用の人材連携」「スピード・アジリティ」「データ活用」などがあります。
これは逆に規模が小さい組織であるがために、大企業よりスピーディにDX施策を進められる事が考えられます。
これは以前の記事でも紹介していますが、中小企業の強みであると言えます。
先行企業の特徴は「投資評価」や「人材に関する戦略・計画」
先行企業とは、DX推進指標の平均が3以上の企業です。
各指標は「0から5」の6段階に分けられているため、取り組みがある程度進んでいる企業と言えます。
「先行企業と非先行企業における現在値の平均の差が大きい上位5指標」を見てみると、次のような結果になっています。
指標 | 先行企業の現在値 | 非先行企業の現在値 | 現在値の差 |
---|---|---|---|
4-4 投資意思決定、予算配分 | 3.55 | 1.33 | 2.22 |
9-6 IT投資の評価 | 3.62 | 1.44 | 2.18 |
3 経営トップのコミットメント | 3.92 | 1.82 | 2.10 |
6 人材育成・確保 | 3.36 | 1.33 | 2.03 |
6-3 人材の融合 | 3.37 | 1.35 | 2.02 |
先行企業は、非先行企業に比べて、投資面、投資に対する評価、人材育成・確保といった項目を重要視している事が分かります。
DX認定企業の特徴は「バリューチェーンワイド」な取り組み
DX認定企業とは、国の認定制度である「DX認定制度」によって認定された「DX推進の準備が整っている企業(DX-Readyの企業とも言われます)」です。
この制度については、こちらの記事で詳しくまとめています。
レポートでは「DX認定企業とDX認定未取得企業における現在値の平均の差が大きい上位5指標」がまとめられています。
指標 | DX認定企業の現在値 | DX認定未取得企業の現在値 | 現在値の差 |
---|---|---|---|
2 危機感とビジョン実現の必要性の共有 | 3.08 | 1.92 | 1.16 |
7-2 バリューチェーンワイド | 2.48 | 1.34 | 1.14 |
3 経営トップのコミットメント | 2.99 | 1.86 | 1.13 |
6-2 技術を支える人材 | 2.43 | 1.30 | 1.13 |
7-3 持続力 | 2.87 | 1.74 | 1.13 |
この結果を見ると、DXのための体制が整っている企業が何を重要視しているのかが分かります。
ここでは、「バリューチェーンワイド」という項目が2位に入っています。
「バリューチェーン(価値連鎖)」とは、商品やサービスが顧客に届くまでの工程を価値の連鎖として捉える考え方、そして分析のためのフレームワークです。
DX推進指標にある「7-2 バリューチェーンワイド」とは、次のように定義されています。
バリューチェーン全体。資材の調達から、商品の製造・出荷・販売の一連の流れの中における価値
出典 : 「DX推進指標自己診断フォーマットver2.3(Excelファイル)」(IPA 独立行政法人 情報処理推進機構)
ここでは、DX認定企業では「個々の業務やひとつの部門におけるDX推進ではなく、事業全体における取り組み」がある程度進んでいると考えると分かりやすいと思います。
事業全体における取り組みのためには、当然、DX推進のビジョンや必要性は組織内で共有されている必要がありますし、そのためには経営陣のリーダーシップがかかせません。
これらの項目は、それぞれ独立しているのではなく、密接に関係していると言えますね。
まとめ
DXに取り組む企業が大企業だけではなく、中小企業や小規模事業者でも増えてきています。
一方で、特に中小企業においては、DX推進をさらに加速させるための人材が不足していたり、評価体制がまだ整っていないという課題も見て取れます。
ただ、中小企業はスピード感を持ってDXに取り組む事ができるのが強みです。
これから取り組みを始めるという企業においては、まずは経営層のDXの理解を深め、社内に必要性を共有するところから始まるかと思いますが、小さな取り組みを重ねていく事で、取り組みの加速度は増していくのではないでしょうか。
なお、人材育成や確保においては、IPAは現在「技術を支える人材」についてのスキル標準を整備しているとのことで、発表され次第、当サイトでもご紹介していきたいと思います。
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