簡単に説明すると
デジタルガバナンス・コードとは、デジタル技術を取り入れた新しい社会に対応するための、組織経営の規範・組織統治の規範です。
このデジタルガバナンス・コードは、経済産業省による「Society5.0時代のデジタル・ガバナンス検討会」で定められました。
今回は、デジタルガバナンス・コードについて、掘り下げていきます。
ガバナンス・コードとは
そもそも、「ガバナンス・コード(governance code)」とは、「組織を統治(ガバナンス)するための規範(コード)」という意味の英語で、企業に関して言えば「コーポレートガバナンス・コード(corporate governance code)」という単語がよく使われます。
このガバナンスコードのDX時代・Society5.0対応版がデジタルガバナンス・コードと言えるでしょう。
デジタルガバナンス・コードの意味
まず、「デジタルガバナンス」と「デジタルガバナンス・コード」の定義について見てみましょう。
経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA: Information-technology Promotion Agency, Japan)の資料には次のように定義されています。
デジタルガバナンス
DXを継続的かつ柔軟に実現することができるよう、経営者自身が、明確な経営理念・ビジョンや基本方針を示し、その下で、組織・仕組み・プロセスを確立(必要に応じて抜本的・根本的変革も含め)し、常にその実態を掌握し評価をすること。
出典 : 「DX認定制度 申請要項(申請のガイダンス)」(経済産業省 情報技術利用促進課 / 独立行政法人 情報処理推進機構)
次に、デジタルガバナンス・コードの定義がこちら。
デジタルガバナンス・コード
企業が、経営において、デジタル技術による社会変化への対応を捉え、ステークホルダーとの対話を基盤として、行動していくにあたっての原則のこと。 (https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/dgs5/index.html)
出典 : 「DX認定制度 申請要項(申請のガイダンス)」(経済産業省 情報技術利用促進課 / 独立行政法人 情報処理推進機構)
デジタルガバナンス・コードの内容
概要
デジタルガバナンス・コードは、次の柱(区分)に分けられていて、これらを自身の組織で策定していく事になります。
- 1.ビジョン・ビジネスモデル
- 2.戦略
- 2-1.組織づくり・人材・企業文化に関する方策
- 2-2.IT システム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
- 3.成果と重要な成果指標
- 4.ガバナンスシステム
これら6つの項目は、DX認定制度の申請書に記入する項目に対応していて、自社のデジタルガバナンス・コードを策定する事で、DX認定制度に申請できるようになります。
さて、経済産業省が公開している「デジタルガバナンス・コード」では、上記の6つの項目について、それぞれの「基本的な考え方」と「DX認定制度の認定基準」を説明した上で、「組織の望ましい方向性」と「取り組みの例」を掲載しています。
なお、「組織の望ましい方向性」と「取り組みの例」は、「DX銘柄」の評価基準にもなっています。
では、詳しく見ていきましょう。
1. ビジョン・ビジネスモデル
基本的な考え方
まず初めに登場するのが、ビジョンとビジネスモデルです。
ビジョン・ビジネスモデルの策定にあたっての柱となる考え方は、次のように説明されています。
企業は、ビジネスとITシステムを一体的に捉え、デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえた、経営ビジョンの策定及び経営ビジョンの実現に向けたビジネスモデルの設計を行い、価値創造ストーリーとして、ステークホルダーに示していくべきである。
ここでいうステークホルダーとは、顧客や投資家、金融機関のほか、エンジニア等の人材や、取引先、パートナー、地域社会等も含まれています。
そして、ステークホルダーに情報を示すにあたっては、情報共有を行うだけではなく、必要に応じて対話の場を設けて検討していく必要があると解説しています。
この項目におけるDX認定制度の認定基準は次の通りです。
デジタル技術による社会及び競争環境の変化の影響を踏まえた経営ビジョン及びビジネスモデルの方向性を公表していること。
公表する媒体は、組織のウェブサイトやアニュアルレポート等、機関承認を得た公開文書とされています。
資料に掲載されている「ビジョン・ビジネスモデル」策定における望ましい方向性と取り組み例を、いくつか掲載いたします。
望ましい方向性
- 経営者として世の中のデジタル化が自社の事業に及ぼす影響(機会と脅威)について明確なシナリオを描いている。
- 経営ビジョンの柱の一つにIT/デジタル戦略を掲げている。
- 既存ビジネスモデルの強みと弱みが明確化されており、その強化・改善にIT/デジタル戦略・施策が大きく寄与している。
取組例
- デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえ、経営方針および経営計画(中期経営計画・統合報告書等)において、DXの推進に向けたビジョンを掲げている。
- DXの推進に向けたビジョンを実現するため、適切なビジネスモデルを設計している。
2. 戦略
基本的な考え方
次の項目が、ビジョンとビジネスモデル実現のための戦略です。
戦略策定にあたっての柱となる考え方は、次のように説明されています。
企業は、社会及び競争環境の変化を踏まえて目指すビジネスモデルを実現するための方策としてデジタル技術を活用する戦略を策定し、ステークホルダーに示していくべきである。
この項目におけるDX認定制度の認定基準は次の通りです。
デジタル技術による社会及び競争環境の変化の影響を踏まえた経営ビジョン及びビジネスモデルの方向性を公表していること。
戦略策定における望ましい方向性や取り組み例を資料からいくつか掲載いたします。
望ましい方向性
- 経営ビジョンを実現できる変革シナリオとして、戦略が構築できている。
- IT/デジタル戦略・施策のポートフォリオにおいて、合理的かつ合目的的な予算配分がなされている。
- データを重要経営資産の一つとして活用している。
取組例
- DXを推進するための戦略が具体化されている。
- 経営戦略において、データとデジタル技術を活用して既存ビジネスの変革を目指す取組(顧客関係やマーケティング、既存の製品やサービス、オペレーション等の変革による満足度向上等)が明示されており、その取組が実施され、効果が出ている。
2-1. 組織づくり・人材・企業文化に関する方策
基本的な考え方
戦略の具体的な内容のひとつめが組織的な戦略です。
この戦略策定にあたっての大切な考え方は、次のように説明されています。
企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要な体制を構築するとともに、組織設計・運営の在り方について、ステークホルダーに示していくべきである。その際、人材の確保・育成や外部組織との関係構築・協業も、重要な要素として捉えるべきである。
組織づくりの戦略としては、必ずしも自社内で完結する必要はなく、社外組織との連携も重要であるとしています。
この項目におけるDX認定制度の認定基準は次の通りです。
デジタル技術を活用する戦略において、特に、戦略の推進に必要な体制・組織に関する事項を示していること。
組織づくりの戦略における、望ましい方向性や取り組みの例を資料からいくつか掲載いたします。
望ましい方向性
- IT/デジタル戦略推進のために各人(経営層から現場まで)が主体的に 動けるような役割と権限が規定されている。
- 社外リソースを含め知見・経験・スキル・アイデアを獲得するケイパビリティ(組織能力)を有しており、ケイパビリティを活かしながら、事業化に向かった動きができている。
- 必要とすべき IT/デジタル人材の定義と、その獲得・育成/評価の人事的 仕組みが確立されている。
取組例
- DX の推進をミッションとする責任者(Chief Digital Officerとしての役割)、CTO(科学技術や研究開発などの統括責任者、Chief Technology Officer )、CIO(ITに関する統括責任者、Chief Information Officer)、データに関する責任者(Chief Data Officer)が、組織上位置付けられ、ミッション・役割を含め明確に定義され任命されている (他の役割との兼任も含む)。
- スキルマトリックス等により、経営層(経営者及び取締役・執行役員等)のデジタルに関係したスキルの項目を作成し、ステークホルダーに向け公表している。
- 経営トップが最新のデジタル技術や新たな活用事例を得ている。
DX推進のための人材の確保と役割の明確化、そして事例を含めた知識の獲得などが重要視されています。
このほかにも、資料では人材育成や評価のための仕組みや、人材の多様性のための準備などについても述べられています。
2-2. ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
基本的な考え方
次の項目は、システム面における戦略です。
この戦略策定における大切な考え方は、次のように説明されています。
企業は、デジタル技術を活用する戦略の推進に必要なITシステム・デジタル技術活用環境の整備に向けたプロジェクトやマネジメント方策、利用する技術・標準・アーキテクチャ、運用、投資計画等を明確化し、ステークホルダーに示していくべきである
前項が組織体制としての戦略であったのに対し、こちらはデジタル技術の活用面での具体的な戦略を定める項目になっています。
この項目のDX認定制度の認定基準は次の通りです。
デジタル技術を活用する戦略において、特に、IT システム・デジタル 技術活用環境の整備に向けた方策を示していること。
デジタル技術面の戦略における、望ましい方向性や取り組みの例を資料からいくつか掲載いたします。
従来の古いシステムからの脱却をどのように改善するか、従来のデータをどう活用すべきか、そしてシステムの導入で終わらないためにどうすべきか等がまとめられています。
望ましい方向性
- レガシーシステム(技術的負債)の最適化(IT負債に限らず、包括的な負債の最適化)が実現できている。
- 先進テクノロジの導入と独自の検証を行う仕組みが確立されている。
- 担当者の属人的な努力だけではなく、デベロッパー・エクスペリエンス(開発者体験)の向上やガバナンスの結果としてIT システム・デジタル技術活用環境が実現できている。
取組例
- ビジネス環境の変化に迅速に対応できるよう、既存の情報システムおよびデータが、新たに導入する最新デジタル技術とスムーズかつ短期間に連携できるとともに、既存データを活用できるようになっている。
- 全社の情報システムが戦略実現の足かせとならないように、定期的にビジネス環境や利用状況をふまえ、情報資産の現状を分析・評価し、課題を把握できている。
- 上記で実施した分析・評価の結果を受け、技術的負債(レガシーシステム)が発生しないよう、必要な対策を実施できている。またそれを実施するための体制(組織や役割分担)を整えている。
3. 成果と重要な成果指標
基本的な考え方
次の項目が、実行した戦略の評価ルールの策定についてです。
この項目に対する大切な考え方は、次のように説明されています。
企業は、デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標を定め、ステークホルダーに対し、指標に基づく成果についての自己評価を示すべきである。
KPI(Key Performance Indicators/重要業績評価指標)や、最終的な目標であるKGI(Key Goal Indicator/重要目標評価指標)の策定や、その評価のためのルール作りがこの項目にあたります。
この項目のDX認定制度の認定基準は次の通りです。
デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標について公表していること。
この項目の策定や、実際の取り組みにおける望ましい方向性や取り組み例を資料からいくつか掲載いたします。
望ましい方向性
- IT/デジタル戦略・施策の達成度がビジネスの KPIをもって評価されている。またそのKPIには目標値設定がされている。
- 上記KPIが最終的に財務成果(KGI)へ帰着するストーリーが明快である。
- 実際に、財務成果をあげている。
取組例
- 実施している取組について、すべての取組にKPIを設定し、KGI(最終財務成果指標)と連携させている。
- 企業価値向上に関係する KPI について、ステークホルダーに開示している。
- デジタル時代に適応した企業変革が実現できているかについて、指標(定量・定性)を定め、評価している。
当然のことながら、KPIやKGIを定めたら、その評価を行う必要があります。
その評価によっては、現状の戦略を見直す必要もでてくるでしょう。
4. ガバナンスシステム
基本的な考え方
デジタルガバナンス・コードの最後の項目がガバナンスシステム、つまり「デジタル技術を活用した組織統治・組織経営のための仕組み」の策定です。
ガバナンスシステム策定における大切な考え方は、次のように説明されています。
経営者は、デジタル技術を活用する戦略の実施に当たり、ステークホルダーへの情報発信を含め、リーダーシップを発揮するべきである。
経営者は、事業部門(担当)や IT システム部門(担当)等とも協力し、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題を把握・分析し、戦略の見直しに反映していくべきである。
また、経営者は、事業実施の前提となるサイバーセキュリティリスク等に対しても適切に対応を行うべきである。
[取締役会設置会社の場合]
取締役会は、経営ビジョンやデジタル技術を活用する戦略の方向性等を示すにあたり、その役割・責務を適切に果たし、また、これらの実現に向けた経営者の取組を適切に監督するべきである。
ガバナンスシステムの策定にあたっては、1~3の項目で策定された内容をどのように推し進めて行くか、関係各所とどのように情報共有や連携を行っていくかを考える必要があります。
この項目におけるDX認定制度の認定基準は、次の3つが挙げられています。
- 経営ビジョンやデジタル技術を活用する戦略について、経営者が自ら対外的にメッセージの発信を行っていること。
- 経営者のリーダーシップの下で、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題の把握を行っていること。
- 戦略の実施の前提となるサイバーセキュリティ対策を推進していること。
資料に掲載されている望ましい方向性や取り組み例を見ると、ガバナンスシステムについてイメージしやすいです。
いくつか抜粋いたします。
望ましい方向性
- 経営者が自身の言葉でそのビジョンの実現を社内外のステークホルダーに発信し、コミットしている。
- 経営・事業レベルの戦略の進捗・成果把握が即座に行える。
- 戦略変更・調整が生じた際、必要に応じて、IT/デジタル戦略・施策の軌道修正が即座に実行されている。
- 企業レベルのリスク管理と整合した IT/デジタル・セキュリティ対策、 個人情報保護対策やシステム障害対策を組織・規範・技術など全方位的 に打っている。
取組例
- 企業価値向上のための DX 推進について、経営トップが経営方針・経営 計画やメディア等でメッセージを発信している。
- 経営トップと DX 推進部署の責任者(CDO・CTO・CIO・CDXO 等)が定期的にコミュニケーションを取っている。
- 経営トップが事業部門やITシステム部門等と協力しながら、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題を把握・分析し、戦略の見直しに反映している。
まとめ
DX時代・Society5.0に対応した組織統治・経営のためのルールである「デジタルガバナンス・コード」。
この策定にあたっては、経営層はもちろんのこと、社内外の関係各所を巻き込んで検討していく事が重要であるという事が「デジタルガバナンス・コード」の資料から読み取れます。
また、技術面での戦略はもちろん、組織の体制面での戦略策定も重要で、それら戦略の評価の仕組み、そして経営全体を推し進めるための仕組みが必要であるという事がまとめられていました。
資料には、この記事で抜粋した内容以外にも、具体例が掲載されています。
特に、ガバナンスシステムの取り組み例は、他の項目に比べて多く掲載されているので、ぜひ一度資料を読んでみていただければと思います。
計14ページと簡潔にまとめられているため読みやすいため、まずは組織内の関係者で一読されてみてはいかがでしょうか。
また、経済産業省はデジタルガバナンス・コードに沿って中堅・中小企業等の事業者がDXに取り組むポイントや事例をまとめた資料も公開しています。
こちらに関しては以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。
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