令和5年1月24日(火)、東北のDX推進に携わる官民のトップにご参集頂きDX NEXT TOHOKU主催の新春座談会を開催しました。
昨年に引き続き、2回目となる当イベント。
東北DXの第一線を走るキーパーソンに「日本のデジタル化・DXへの考察」や「東北DXの今とこれから」をお聞きしました。
「DXは敷居が高い」というイメージを払拭する話や、「何ができるか知る事、やってみる事が重要」という考えは、これからDXを始める組織にとっても、背中も押してもらえて、かつ「やってみよう」と思える話だったのではないかと思います。
イベント動画
座談会の内容は、以下のYouTube動画でもご覧頂けます。
YouTubeの動画説明欄にはプログラムの目次とリンクを掲載しておりますので、お好きな箇所からご視聴頂けます。
登壇者一覧
- 経済産業省 東北経済産業局長 戸邉千広氏
- 総務省 東北総合通信局長 栁島智氏
- 株式会社zero to one 代表取締役CEO 竹川隆司氏
- 一般社団法人DX NEXT TOHOKU 代表理事 阿部嘉男
- 一般社団法人DX NEXT TOHOKU 理事 福留秀基
- 一般社団法人東北経済連合会 会長 増子次郎氏(ビデオ出演)
- 仙台市長 郡和子氏(ビデオ出演)
- 宮城県知事 村井嘉浩氏(ビデオ出演)
- 一般社団法人DX NEXT TOHOKU 理事/事務局長 淡路義和(ファシリテーター)
登壇者プロフィール
戸邉 千広 - とべ ちひろ
経済産業省 東北経済産業局長
平成4年に、東京大学教養学部を修了され、同年、通商産業省(現在の経済産業省)に入省。
電力の安全規制、省エネや新エネ推進などエネルギー政策に長く携わられたほか、外務省在イタリア日本国大使館や、官民交流での株式会社ローソンでの勤務の経験を経て、直近では復興庁福島復興局の次長として、福島復興の最前線に立ち、帰還のためのインフラ整備や帰還する方への支援、加えて、移住定住の促進などを担う。
令和4年7月からは東北経済産業局長として、東北地域の経済活性化に向けて尽力。
栁島 智 - やなぎしま さとる
総務省 東北総合通信局長
平成3年に、郵政省に入省。平成19年に総務省総合通信基盤局データ通信課インターネット基盤企画室長を担う。通信基盤局電波部監視管理室長などを歴任後、平成27年に内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター参事官として重要インフラを担当。
平成29年に総務省に戻り、参事官、国際戦略局技術政策課長、沖縄総合通信事務所長を経て、令和4年6月、東北総合通信局長となる。
竹川 隆司 - たけかわ たかし
株式会社zero to one 代表取締役CEO
2000年、国際基督教大学教養学部を卒業。野村證券にて、国内外で勤務したのち、30歳で退職、独立。教育テクノロジー分野で企業経営・事業買収・売却等を経験。
2010年に帰国し、東日本大震災の復興支援活動として「東北風土マラソン&フェスティバル」の立ち上げ、「INTILAQ」の創業を経て、2016年、zero to oneを創業、主にAIを中心としたデジタル人材育成を推進。
東北大学特任准教授、日本ディープラーニング協会人材育成委員、AIビジネス推進コンソーシアムの理事なども務める。
福留 秀基 - ふくどめ ひでき
一般社団法人DX NEXT TOHOKU 理事
スパークル株式会社 代表取締役
東北大学大学院通信工学専攻修了後、株式会社シグマクシスにてデジタル戦略コンサルタントとして飲料メーカー・金融業・専門商社・小売業などのクライアントへの新規事業開発・PMO 案件・ビジネスデューデリジェンス・データ解析に従事。
その後、スパークルに参画、現在代表取締役。ハイテク・R&D領域を中心としたベンチャーキャピタル業務、デジタルを利活用した東北発DXの推進、戦略領域を中心としたコンサルテーションを実施。
一般社団法人東北絆テーブル理事も務める。
阿部 嘉男 - あべ よしお
一般社団法人DX NEXT TOHOKU 代表理事
株式会社SRA東北 代表取締役社長
1987年株式会社東北SRA(現 株式会社SRA東北)に入社。 2006年、株式会社SRA東北・執行役員ソリューション事業部長を経て、2010年代表取締役社長に就任。
その後、一般社団法人宮城県情報サービス産業協会の副会長に就任、2022年からは会長に就任し、組織改革に着手。
2021年2月、一般社団法人DX NEXT TOHOKUの代表理事に就任。
淡路 義和 - あわじ よしかず
一般社団法人DX NEXT TOHOKU 理事/.事務局長
株式会社コー・ワークス代表取締役
大手・中小のベンダーを10年ほど渡り歩き、大手自動車メーカーのR&Dや気象庁、大手商社系アセットマネジメント企業など、エンタープライズなシステム開発案件のキャリアを積んだのち、2009年株式会社コー・ワークスを設立。
IoT事業をコー・ワークスよりカーブアウトする形にて株式会社アイオーティドットランを起業。
座談会のタイムライン
座談会は、次の流れで進行しました。
- ビデオメッセージ
- 東北経済連合会長 増子次郎氏
- 仙台市長 郡和子氏
- 宮城県知事 村井嘉浩氏
- 第1部 : 日本と東北の在り方、これからどうデザインしていくか?
- 第2部 : 東北のDXに必要な事とは?
当日は、DX NEXT TOHOKU 理事・事務局長の淡路がファシリテーターとなり、登壇者の皆さまのデジタル化・DXに寄せる思いをお伺いしました。
事項より、当日の内容をレポートします。
淡路義和(DNT理事・事務局長) (以下、淡路) : 当法人は、東北のデジタル化・DXを劇的に推進したいという思いを持った有志が集まり2021年2月に設立した団体です。今年で早3年目となりました。
我々は、なぜ今デジタル化・DXが必要なのか、それをどう進めていくか、このビジョンとプロセスの両面を具体性を持って推進していくといった思いをもって活動をしています。
本日は、東北におけるDX推進のキーマンである皆さんと、日本や東北の在り方や、どうデジタル化・DXを進めていくべきかについて、話していきたいと思います。
最初に、今回参加が叶わなかった皆さまにメッセージを頂戴しておりますのでご紹介いたします。
ビデオメッセージ
DXには社長の気づきが重要 - 東北経済連合会長 増子次郎氏より
増子次郎氏(東北経済連合会) : デジタル化により、新たな暮らし方や働き方が可能になるとともに、DXにより、地域産業の競争力強化、自立と成長、そして地域資源を活かした農業、観光の魅力度アップが可能となります。
これらの実現に向けて、東経連ビジネスセンターでは、地域企業向けにDX簡易コンサルティングを柱とする、デジタル化・DX支援事業を実施して参りました。
デジタル化・DX支援事業を通して、改めて分かった事は、中小企業がDXを始めるきっかけは、社長の気づきが不可欠であるという事です。
東経連のDX支援は、これからも継続して参ります。
デジタル技術の重要性と仙台市の展望 - 仙台市長 郡和子氏より
郡和子氏(仙台市長) : 長期化するコロナ禍やエネルギー価格物価の高騰などの影響によって、仙台、東北の地域経済を取り巻く環境は、依然として厳しい環境にございます。
このような中において、デジタル技術が果たす役割は、ますます大きくなっており、テクノロジーを最大限に活用しながら、社会課題に適切に対応する事が、極めて重要であると考えております。
今年は、国際線の運航再開によるインバウンドの回復に向けた動きや、青葉山や定禅寺通りを始めとしたエリア毎の特色を活かした街づくりの取り組みなど、将来を見据えた新たな杜の都仙台を形作っていく一年でもあります。
これら一つひとつの取り組みにも、デジタル技術を最大限に活用しながら、世界から選ばれる都市「The Greenest City」の実現を目指して参りますので、皆さま方の引き続きのお力添え、宜しくお願い申し上げます。
淡路(DNT理事・事務局長) : 仙台市には当法人設立当初より連携自治体という事で、DX NEXT TOHOKUの会員に名を連ねて頂いております。
現在推進している地域DX推進事業の「仙台・東北DXエコシステム」に参加頂いたり、産学官連携の一環として実施している、仙台市内の企業向けのインターンシップにご協力頂いたりとかですね。
こういった具体的な活動を通して、地域や企業の課題をDXというツールで解決していくために、自治体と民間はどう連携していくべきかという、ロールモデルを一緒に作っていこうという事で、情報交換をさせて頂いております。
宮城県としてのDXや企業DXのための土壌づくり - 宮城県知事 村井嘉浩氏より
村井嘉浩氏(宮城県知事) : 昨年は地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こす、デジタル田園都市国家構想の実現に向けた取り組みが始まった年でもありました。
県では、昨年4月に中小企業のデジタル化を推進する産業デジタル推進課を設置したほか、原子力防災分野の避難訓練では、マイナンバーカードを活用したスマホアプリを導入し、避難の円滑化に向けた実証実験を行い、DXによる変革・宮城に向けた取り組みを一歩ずつ進めております。
さらに今年は、テック系企業のスタートアップ支援や、大学生がITスキルを活かしたアプリ開発を競い合うハッカソンといった新しい仕掛けで、若き才能を惹きつけるチャンス溢れる地域づくりを進めたいと考えております。
第一部 : 日本、東北の未来
淡路(DNT理事・事務局長) : それでは次に、今回お集まり頂いた皆様とのパネルディスカッションに移って参りたいと思います。まずですね、日本の未来、東北の未来について、それぞれのお立場で語って頂ければと思います。
成長投資促進のための施策を
淡路(DNT理事・事務局長) : 経産省は、これからの日本の経済・産業を、どんな風にデザインしていこうとしているのか。その中で、東北経産局として東北の未来について、どう在るべきなのかという点について、お話を頂ければと思います。
戸邉千広氏(経済産業省) (以下、戸邉) : 90年代以降の日本経済というのは、その時から少子高齢化とか、人口減少といった構造的な問題は言われておりましたし、やはり成長投資、これが低迷して来ておりまして、80年代くらいまでは潜在成長率というのが、3%台であったわけです。
この潜在成長率は、国際的に見ても低い状況が続いております。
そういう、失われた30年と言われていますけれども、これから脱却していく上で、我々も言っておりますのは、国内の民間投資です。これは設備投資もそうですけれども、人的投資ですね。
こういったものも含めて、国内の民間投資をしっかり促進して、イノベーションや生産性の向上につなげていくと。そして、賃上げ、所得の向上と。
この循環を、実現すると。
そのために、政策的なリソースもですね、しっかり投入していこうと考えております。
課題先進地だからこその強みがある
戸邉(経済産業省) : 東北の状況ですども、人口減少、高齢化といった課題先進地であります。そういう中で、この人材育成が、より一層重要性を増している訳であります。
東北地域を見ますと、地域内外のプレーヤーが集まって、あるいは引き寄せられて、それぞれの能力を持ち寄って、ゼロベースで複数の可能性に挑戦し続けている。そういった実態が各地で見える訳でございます。
私自身、2年間、福島復興局という所で主に福島の浜通りの震災の復旧・復興のお手伝いをさせて頂きましたけれども、今申し上げたような現場を目の当たりにしてきました。
私自身は、エネルギーの仕事ををやってきた人間でありますので、いち早くグリーン社会というのをこの東北の地域でも実現していくと。東北エリアはポテンシャルは非常にあると思っております。
GX(グリーントランスフォーメーション)という言葉が、よく言われておりますけれども、このグリーン社会を実現して、素敵に成長し発展し続ける持続可能な社会というのを東北で築いていきたいし、築くべきだと。 そのために経済産業局としても、お手伝いしたいと思っております。
振り返って気づく進化の重要性
淡路(DNT理事・事務局長) : 柳島局長にお伺いします。総務省でデジタル化を支える通信インフラの整備や、ICT利活用の促進をされてきた訳ですが、今後、日本をどうデザインしようとしているのか、その中で東北の未来についてどのようにお考えなのかという所をお話頂ければと思います。
栁島智氏(東北総合通信局) (以下、柳島) : ICTはですね、社会・経済活動を支えるための重要なインフラになっているというのは間違いない事実だと思います。
私は平成3年に入省したのですが、実は当時からテレワークという言葉はあって、それを総務省、当時の郵政省は推進していたんですよね。
で、30数年前のネットワーク環境を今思い起こした時にですね、その時にテレワークって本当にできたのかな?と。
今日ここに端末持ってきてますが、実はこれ、役所のシステムにもログインできているんですけれども、昔だったらそんなこと出来なかったし、ある意味セキュリティ上の問題もあるから、そんな事やらしてもらえなかったのでは、と。
ですが総務省、旧郵政省は、そういった事を別に目指していた訳ではないかもしれないけれども、昔からネットワーク環境を整えていくというのは、有線にしろ無線にしろ、ずっと取り組んできました。
例えば今から10年前に、ちょうど3Gから4Gに切り替わるというシチュエーションの時に「いやいや別に3Gで使えてれば別に十分だよ」という声も結構あって、「なんで4Gにしなきゃいけないんだ」という事も言われました。
今、まさに4Gから5Gに切り替わっていくというシチュエーションの中で、似たような話はありますね。
「5Gって何に使うの?」と。
じゃあ、今、3Gの時代の通信速度で皆さんが耐えられるかと言ったら全然そんな事はない(耐えられないだろう)と。
それを事を考えた時に、ネットワーク環境を発展させていくという事は、そこにニーズがあるかどうかは関係なくて、関係ないと言うと言い過ぎかも知れませんが、そういう事を抜きにしても、きちんとやっていかないといけないと。そういう事が、社会的な使命だと感じております。
政府としても、一昨年岸田首相が、デジタル田園都市国家構想というものを打ち上げましてですね、総務省としてもそのためのインフラ整備計画を進めている所であります。
ネットワーク環境において東北は他の地域に遜色はない
柳島(東北総合通信局) : 東北地方というのは、光ファイバーにしても、携帯のネットワーク環境にしても、実は他の地域に比べて、東京都とかを除けばそんなに遜色がないレベルになっていると。
光ファイバーについても、人が住んでいる所の99.8%くらいはカバーされている。携帯についても、4Gであれば、99.9%オーバーでカバーされている。
そういう状況になっているとすると、社会インフラで、他の地域に負けている事も全然ないと。
そういった時に、今後働き方が変わって、場所に捉われない働き方をしていく中で、東北地方に、人々にどんどん来てもらうという事が、どういう形で実現できるのかというの事が重要ではないかと。
住みやすさであったりとか、産学官の距離が近いとか、人々が温かいとかですね、そういった所も、今後人々を惹きつけてくるという意味で、非常に重要な要素になってくるのではと思っています。
このままだと「日本沈むな」と
淡路(DNT理事・事務局長) : 竹川さんは海外で活動した事もあるので、外からの視点というのも、お持ちかと思います。俯瞰して、日本の未来をどのように捉えられているのでしょうか?
竹川隆司氏(zero to one) (以下、竹川) : 私自身が日本の未来を語るのは僭越でしかないのですが、自分自身の経験からという事で申し上げますと、まず一つは、15年、20年後を考えると心配ですというのがまず結論であります。
何故心配かと言いますと、私は野村証券を15年前に辞めました。
大好きな会社だったんですけれども、辞めざるを得なかったという気持ちでしたね、当時。
それは当時、ロンドンで、それこそ全体だと30兆とか50兆持ってる所が自分のお客さんで。グローバルな視点で日本株を見る方々とずっと接していたのですが、その中で肌で感じていたのは、このままだと「日本沈むな」と。それで、いてもたってもいられなくなって、自分で何とかしようと思って、辞めてしまったというのが、30歳の時でした。
そしてこの15年間で、実はそのお客さんたちがどうなっているかと言うと、半分以上は職を追われてしまったか、アジア株とか世界株のファンドマネージャーになっているか。
つまり、日本株だけでは食っていけないようなファンドマネージャーたちになったという状態になっているんですよね。
それって日本の経済成長率とか、先ほど戸邉局長からもあった潜在成長率みたいなものが、顕著に表れている、私の中でも本当に身近な事例です。
じゃあ、何故かっていう事を考えると、色んな理由があると思うんですけれども、日本人の、特に大人の学びの姿勢とか学びの質と量みたいなものが、自分自身への反省も込めてですね、全然足りないなと思っています。
これが顕著に現れたのが、コロナ直後の状況なんです。
我々もオンラインを中心に教育コンテンツを提供していますが、コロナ直後って皆さんオンラインで勉強しますとなってアクセスが上がったんですよ。でも、せいぜい上がっても150%、200%でした。
一方で、アメリカのCourseraとかUdacityとか、そういった教育コンテンツのプラットフォーマーたちは、400%とか、600%とかアクセスが上がっているんですよね。
自分事として。挑戦、失敗、学びのサイクルを――
竹川 : もう一つ面白かったのは2020年の秋学期のアメリカの大学の入学者数を見た時に、学部生は海外から来れなくなったので減ったんですよ。ですけど修士って増えてたんですよね。
つまり、今、コロナだからこそ勉強しようっていう人がいかに多かったかという事だと思っていて、この根本にあるのが、まさに学ぶ姿勢で。
アメリカで面白いアンケートがあって、スキルアップデートしていないのは誰の責任ですかという質問をした時に、72%の一番トップの回答は、自分自身だったんですよ。
たぶんこれ、日本で同じやつをやると「自分の企業」とか、もしくは「国」とかの責任にしちゃうんじゃないかなと。
自分の責任で学び続けなきゃいけないという姿勢そのものがその差になっていて、これが15年続くとまた大きな経済の差になる、産業競争力の差になるじゃないかっていう事を非常に心配しているという事なんですけれども。
だからこそ、私自身も学ばなきゃいけないし、自分自身も教育の会社としてはまだまだやるべき事はあるなという風に思っています。
それで東北ですが、やはり産官学の距離が近いという点は大きいなと。その中で、デジタルの分野ですとか、今ですと起業支援とか色んな学びの機会が溢れているなと。
そういった機会を活かして、先ほど戸邉局長からも挑戦し続けるという話がありましたけれども、学んで挑戦して、また失敗から学ぶという、そのサイクルをうまく回せれば、東北の未来は明るくなるんじゃないかなと、思っております。
この部分を私自身も学びながら一緒に頑張って行きたいなと思っております。
成功事例が生まれにくい環境だったが、変化が出てきた
淡路(DNT理事・事務局長) : 続いて福留さんですが、DX NEXT TOHOKUの中でも、理事として活躍頂いております。
東北の企業向けのDX支援を役割として担当頂いてますが、これまで支援してきて感じた事とか、課題感について、お話を伺えればと思っています。
福留秀基(DNT理事) (以下、福留) : 一番に感じるのは、東北のみならず、地域における産業構造が、首都圏や三大圏とは全く違うという所かなと思います。
仙台は顕著ではございますが、支店経済なんですね。つまり、本店がこの地域にない。
何を意味しているかと言うと、決裁権がこの地域に存在しないと。
そして先行事例が必然的に少ない中で、周囲から焚きつけられるという雰囲気がどうしても弱くなっているという事を感じます。ですので、成功事例が環境・雰囲気として生まれづらいという。
そういうダウンフォースがかかっているという事があるのと、そこから成功された方が、引き上げられるチャンスが無かったという所がこれまでの課題なのかなと思っております。
ここに光明が差し始めている所でして、東北経産局様がTOHOKU DX大賞といった形で、成功事例や企業を引き上げていく"傘"を作ってあげる取り組みをされています。
また、様々な団体がDXを行う会社や新規事業を行っている会社を賞賛していくといった動きが起き始めているのかなと思います。
できる事に気づく事から組織が動き出す
福留(DNT理事) : 挑戦する人が出づらいとはいえですね、東北経済連合会の増子会長のビデオレターにもありましたように、社長の気づき。気づかれた方から変わってるんじゃないかなというのが、最近の現状だと感じています。
もうひとつキーパーソンとなっているのは、変革のエンジンになるような、IT人材です。この人材がいるかどうかでかなり変わってくると思っております。
情報システム部でなくても、総務部とか、あるいは生産管理であったり、そういった少しは手が動く(デジタル実務ができる)と言われている方が、やる気になってですね、社長とタッグを組んで進めていく。そういう会社から変化が起き始めているのかなと思っています。
DX NEXT TOHOKUとしては、「アイツがやっているんだったらオレもやる」といった、ある種東北特有の空気を作れるような働きかけをしていきたいと思っております。
淡路(DNT理事・事務局長) : 経営者や従業員が率先して、自分事として未来をイメージして、自分でしっかり動いていくと。そういう気づきを得た企業からどんどん変わっているというのが、現場を見てて思っているという所ですね。
福留(DNT理事) : そうですね。そのきっかけとなる機会は多分にあります。河北新報や日経を読んでも、下段に様々な広告が乗っていたり、あるいはGoogleやYahoo!で「DX 事例 セミナー」などで検索するといくらでも出てきます。
こういったものを一回見てみたり、イベントで他の方と話してみたり。
そういった「1歩」を行動に移してみて、「課題がITやDXで補えるんだ」という知見が溜まっていく循環が起き始めている方から、東北ではDXが始まっているんじゃないかと思っております。
Excelのマクロのようなレベルでももちろん問題ないんですよね。
最初の一歩を作っていくというのが、東北の未来の一番の一歩ですね。
DXをウェルビーイング視点で考える。東北はその先駆者と起爆剤になれるのでは
淡路(DNT理事・事務局長) : 阿部さんは色んな経験もおありですが、未来に対してどういう風な思いをお持ちなのかとか、今あるものを次の世代をどう繋げていきたいかみたいな、そういった視点でもお話を伺えたらと思うのですが。
阿部嘉男(DNT代表理事) (以下、阿部) : 幕末にタウンゼント・ハリスって下田に来た方が何を言ったかっていうと、日本人はそんなお金があるわけじゃないけど、どうも家は清潔で、みんな食べたいものを意外に食べてて、着物もあって、日当たりが良くて、いい所に暮らしていると。みんな幸せそうだと。そういう話をしている訳ですよね。
アインシュタインもそのような事を言っている。
という事は、もっと幸せになる方向、つまり今でいうウェルビーイング(Well-being)ってやつですよね。そっち側にうまく振っていくために、どうするかっていう事が重要な気がするんですよね。
それは当然DXは必要なんですよ。
でもまず、今の時代のウェルビーイングを、どう考えるかっていう事を、真剣に考えた方が良いであろうと。それの先駆者に東北はなれるのかもしれないという思いでいた方が良いと思っているんですよね。
先程リモートワークの話が出ましたが、当然居心地の良い所にはみんな来たがるし、そこにも定住したくなるし。ウェルビーイングみたいなものを、どう作っていくのか、醸し出していくのか、というのが、実はものすごく大切になるような気がするんですよね。
幸せそうな人と幸せそうじゃない人って、想像力が3倍くらい違うらしいんですよ。生産性も3割違うとか。
そうすると、今私たちが目指すのは、皆で取り合いするんじゃなくて、協力し合って幸せな環境をどう作っていくかっていうのを、真剣に考えた方が良いんじゃないかなと、私は思っていて。
その起爆剤に東北がなれたら一番良いのかなっていうのが、私の思いです。
淡路(DNT理事・事務局長) : これはなんかもう、今日の夜のテーマ決定(笑)。めちゃめちゃ話をしたいのですが、時間の制約もありまして(笑)。我々の団体は少子高齢化でも豊かで幸せな未来を作るというのが、ひとつテーマとしてありますので、まさに、今のお話というものも、我々が実現していきたい未来のひとつの形という事ですね。
第二部 : 東北のDXに今必要な事
淡路(DNT理事・事務局長) : 第2部はDX・デジタル化の核心に迫っていきたいなと思うのですが、東北のDXに今、必要な事を、皆さんの立場からお話頂ければと思っております。
DXの必要性に気づくきっかけ作りを進める
戸邉(経済産業省) : 企業がDXの必要性に気づいていないのであれば、きっかけ作りができればと。あるいは気づいているが躊躇している企業にはアクションをどう促していくか。
企業に気づきを与える事例紹介としてTOHOKU DX大賞を創設しました。東北地域でのデジタル化・DXに果敢にチャレンジしている企業や団体の事例を、表彰・紹介する取り組みです。
それから、地域企業のDXの伴走支援を産学官で支援するといった活動を開始しておりまして、東北ではDX NEXT TOHOKUにもその役割を担って頂いております。
それから、不足するデジタル人材の育成でありますけれども、人材育成プラットフォームを今年度から全国規模で開始しました。
資金面では、DX投資税制による減税であるとか、IT導入補助金、ものづくり補助金など、デジタル関連の支援策というのを拡充してきております。
支援策は比較的充実しているんではないかなと思っておりますので、我々としては、これを地域で必要としている企業に、しっかり使って頂く、これらの施策を届ける、こういった所が非常に重要であると認識しております。
淡路(DNT理事・事務局長) : TOHOKU DX大賞は非常に効果があるのではと思います。我々も実際に企業さんを紹介させて頂いたりしましたが、その企業さんからも「すごい反響があった」と。
これをロールモデルとして、色んな人が刺激を受けて、次のチャレンジにつながっていくような、そういった動きにもなっているなと実感しております。
まず始めてみる。アンテナを立てる。そのための支援を
栁島(東北総合通信局) : DXという言葉自体が、敷居の高いものになっているのでは?と。福留さんが仰った通り、まずは始めてみるというのが大事だと思うんですよね。先程の「Excelのマクロでも」と話がありますが、やっぱりやってみるという事は非常に重要なんじゃないかなと思っています。
これはDXとは少し違うのかもしれませんが、色々新しいビジネス、サービスを作っていく上で、実証をやっていくというのが非常に大切だという事もありまして、そういったICTを活用する実証実験について、我々も助成をするという事をやっております。
その取り組みが、中々届きにくいという所もあるのではないかと思いまして、東北地方においては、経産局や、我々(通信局)、農水省、国交省も含めて、それぞれの持っているDX関連の支援策について、合同で説明会をするという取り組みを、何年か前から行っております。
今年度は、東経連も主催する形で、そういった事もやるという事で、色々とご紹介させて頂いております。色んな事をやってみるという事もそうですし、どういうような支援策があるのかを実際に知っていただく事も、大切なのではないかなと思います。
ぜひ、そういう所にもアンテナも高くして頂ければと。
現状を移行できないのであれば、ツールに合わせるのもアリ!?
栁島(東北総合通信局) : あともう1つですね、まずやってみるというのは、入口としてはそうだと思うんですが、どうしても、日本のICTのサービスというのは、カスタマーやユーザーに対して、非常にカスタマイズが多くやりすぎていると。
個人的な意見ですが、それをやり過ぎたが故に、お金も時間もかかって、結局新しいサービスについていけなくなってしまう部分があるのではと。
なので、ある意味、出来合いのものをいかに活用して新しいものを作っていくのか、という事も、これからは考えていくべきなんじゃないかと。
淡路(DNT理事・事務局長) : 「日本のICTサービスってカスタマイズが多すぎる」というのは、我々の界隈でも話が出る所でして、夜に話したいですね(笑)
一同 : (笑)
DXの敷居を下げて、楽しんで変わっていければ
竹川(zero to one) : 柳島局長も仰ったDXに対する敷居の高さは、実際にあるなと思っていて。トランスフォーメーションって、「変身」なんですよね、英語で言うと。
「変身」というと、漫画がお好きの阿部代表の前で言うのもあれですが、トランスフォーマーという漫画で、車が戦うロボットになっちゃうみたいな。あれが、トランスフォームですよね。
でも、変身までしなくてもいいよって思うんですよね。
なので、気づいた所からちょっと変えていく。
で、楽しいから続けていく。
それで、振り返った時に、ちょっと変化してたな、良かったな、みたいな。それでいいと思っていて。
なので、まずはDXに対する敷居を地域の中で落として行くと。
場があれば気づきを得る人も出てくる
竹川(zero to one) : それを実践していくためには、産官学が距離が近いからできる事があると思います。これはできると思っています。
例えば、弊社で、仙台市のSENDAI X-TECH INNOVATION PROJECT(クロステックイノベーションプロジェクト)という、AIを主に活用して人材育成や産業活用を推進するというプロジェクトを、まさにDX NEXT TOHOKUさんとも一緒に進めています。
2年間で、500人位の方がイベントに参加してくれて、G検定やE資格といった、トヨタでも野村でも取られているAIの資格を地域で100名以上の方が取ってきて。経営層のハンズオンセミナーは30名がすぐ埋まっちゃうという状態になっていて。
実際にそこでAIを見て、気づいた方から変わっていって。
いつも年度末にAIのビジネス活用アワードの募集をして、昨年度もやって今年度もやっているんですけれども。前回も、実は10件位応募があればいいなと思っていたら、15件応募があって。
それくらい、気づいた方から動き始めるというのは、実際に場を設けると出てくると思っています。
企業を取り合うような事ではなくて、一気通貫で支援できるような形で連携をもっと強めていければ良いなと言う風に感じています。
淡路(DNT理事・事務局長) : 「トランスフォーメーション=変身」みたいな、なんか急に、ガラっと変わるみたいなイメージを持っちゃうと、しんどいですよね。あんまり高みを見すぎるとストレスになって、ちょっとしんどいみたいな話ありますよね。
竹川(zero to one) : そうなんですよね。だから、DXってUberみたいに思われちゃうんですけれども、そうじゃなくて、日本交通さんみたいにコツコツと無線から積み上げて、タクシーアプリの「GO」に至ってるていうのもトランスフォーメーションなんで。
そういったように、「振り返った時にDXが出来てたな」でも良いと思うんです。
支援事業を利用して、自身を知ってほしい
福留(DNT理事) : 私の所属するDNTの事業共創委員会とは、まさに、東北の企業様のDXをいかに推進するかを、日々考え行動している委員会でございます。その中で、自身を知るとっかかりをどう作るかという所が必要かと思います。
実はそういう支援事業はあるんですよね。
東経連のビジネスセンターでもDXに関する診断サービスもありますし、県単位で言うと県や宮城県で言うと外郭団体の産業振興機構の方で、専門家派遣という事業がございます。
中小機構でも「よろず相談拠点」を運営されていまして、「とりあえず聞きにいく」という体制はできています。
淡路(DNT理事・事務局長) : やっぱり自分たちの状態を知るという事は、相談する側も、相談を受ける側も大事ですよね。福留さんの事業共創委員会は企業の皆さんを相手に、色々と支援していく町医者的な存在ですが、まずは相談者がどうなっているのかという状態をしっかり知らないと、医者としても次のオペレーションができないですし。
福留(DNT理事) : 話を聴いて症状を察せるのが我々の役割と思っておりますので、その役割を全うしていきたいと思っております。
学ぶ姿勢を、その必要性に気づかないといけない
阿部(DNT代表理事) : 竹川さんのお話で、アメリカだと自責の人たちが7~8割いるという話ですけれど、そういう大人の教育の方が、大切なような気がしているんですよね。
特にDXといったような場合は、経営者が動かない限りは無理だと思うんですよ。下から行ってもなかなか潰されたりですね。そうすると嫌になって辞めるという事になってくるので。
やはり一番大切なのは、大人の教育、特に経営者の教育をきちっとしていかないと、こういうのって中々進めないだろうなというのがあります。
東北全体、県、市を含めた形で、教育しないといけないという雰囲気を作っていく。これがまず第一歩かなという気はしていますね。
淡路(DNT理事・事務局長) : 先程の竹川さんの自責の話は結構衝撃的でしたけれども。やっぱり大人の教育が大切なのは、今改めて阿部さんからお話を聞いて、私も響きました。
阿部(DNT代表理事) : 昔は日本人ですごく勤勉だって言われたんですよ。ところが今統計を取ると、めちゃくちゃどの国よりも低いですよ。ここを変えていかないと。
淡路(DNT理事・事務局長) : 第二部も大変面白いお話が沢山ありましたが、今日の夜の打ち上げがめちゃめちゃ楽しみですね(笑)。
DXの知見を東北全体に広めていく
淡路(DNT理事・事務局長) : デジタル化・DXは手段であって、一番大事なのは目的だなと、痛感しました。
DX NEXT TOHOKUは設立当初から出口を決めて、5年でクローズすると決めて立ち上げた団体でございます。
先程、福留さんからもお話もありましたけれども、我々DX NEXT TOHOKUは、地域のDXの町医者として皆さまの課題をしっかり丁寧に拾って行きながら、これまでの実績、色々な所で見聞きしてきたもの、知見、ノウハウを、東北全域にどんどん広げて行きたいと考えております。
残り3年間、突っ走って参りたいと思っております。
DX推進のための無料相談サービス
一般社団法人DX NEXT TOHOKUでは、組織のDX推進を支援するための無料相談・分析サービスを行っています。
「DXに取り組みたいけど何から手を付けてよいか分からない」、「DXに取り組んでいるが思うように進まない」等、DXに関するお悩みをお持ちの方、ぜひお申込みください。
詳細は以下のページから御覧ください。